日本人はいつからくるみ(胡桃)を食べていた?|縄文時代から続く木の実の物語

日本人はいつからくるみ(胡桃)を食べていた?|縄文時代から続く木の実の物語

パンや焼き菓子、サラダ、ミックスナッツなど、今では身近な食材となったくるみ。

海外から伝わったナッツという印象を持つ人も多いかもしれません。しかし、日本人とくるみの関係は、稲作が広がるよりもはるか昔、縄文時代までさかのぼります。

硬い殻の中に種子を蓄え、秋になると地面へ落ちるくるみは、古代の人々にとって貴重な食料でした。その後、地域の料理や栽培品種へと姿を変えながら、現代まで食べ継がれています。

日本人はいつからくるみを食べ、どのように暮らしへ取り入れてきたのでしょうか。縄文時代から現代まで、その長い物語をたどります。

日本人は約一万年前にはくるみを食べていた

日本でくるみが食べられるようになったのは、いつ頃なのでしょうか。

国立歴史民俗博物館によると、日本に自生するオニグルミは、少なくとも約一万年前の縄文時代早期には食料として利用されていました。各地の縄文遺跡から殻が見つかっていることからも、当時の人々にとって身近な木の実だったことが分かります。

オニグルミは、現在スーパーなどで見かける一般的なくるみよりも殻が厚く、簡単には割れません。縄文人は、硬い殻を割り、中にある種子を取り出して食べていたと考えられています。

現代のような便利な道具がない時代に、なぜ手間をかけてまで利用していたのでしょうか。

その理由の一つは、秋にまとめて採取でき、比較的保存しやすかったことです。さらに、くるみは脂質やたんぱく質を多く含みます。狩猟や採集を中心に暮らしていた人々にとって、少ない量からエネルギーを得られる木の実は、頼りになる存在だったのでしょう。

縄文人にとって、くるみは秋の保存食だった

オニグルミの実は、9月から10月頃に成熟します。緑色の果肉に覆われた実が木から落ち、外側の部分が取れると、私たちがよく知る硬い殻が現れます。

殻に守られた種子は、水分の多い果実などに比べて傷みにくく、一定期間蓄えておくことができます。採れる時期が限られる自然の恵みを、必要なときまで残しておけることは、縄文人の暮らしにとって大きな利点だったはずです。

具体的にどのような調理をしていたのかは、まだ分かっていない部分もあります。ただ、土器の登場によって、木の実を煮たり、蓄えたりすることが可能になり、植物性の食料をより幅広く利用できるようになったと考えられています。

遺跡に残された殻は、縄文人が季節の移り変わりを読み、実りを集め、暮らしに役立てていたことを伝えています。

現在では気軽につまめるくるみも、かつては硬い殻から一つずつ取り出す、手間のかかる自然の恵みでした。

くるみ(胡桃) ナッツ(木の実)
くるみ(胡桃)

日本に自生したくるみと、後から広まった栽培種

一口にくるみといっても、すべてが同じ種類ではありません。

日本の山野や川沿いには、オニグルミやヒメグルミなどが自生しています。縄文人が口にしていたのも、こうした日本に古くから生育していた種類です。

一方、現在世界で広く流通しているのは、ペルシャグルミの系統を引くものです。日本で栽培される信濃くるみも、日本原産のオニグルミとは異なる流れを持っています。

東御市の資料によると、カシグルミは江戸時代中期に中国を経て伝来し、ペルシャグルミは明治初期に欧米から導入されました。東御市では明治初めから栽培用のくるみが導入され、大正時代に栽培が盛んになっています。

大正天皇の即位を記念して、当時の和村で各戸に苗木が配られたことをきっかけに栽培が広がり、昭和初期には全国へ種苗を供給するまでになりました。東信地方で育てられた、実が大きく殻の薄い優良なくるみは、やがて「信濃くるみ」として販売されるようになります。

このように、日本人とくるみの歩みには、二つの流れがあります。

一つは、縄文時代から日本に自生するものを採取し、食料として利用してきた歴史。もう一つは、後世に大陸や欧米から伝わった系統を育て、地域の農産物として発展させてきた歴史です。

日本のくるみ文化は、どこか一つの土地から運ばれて始まったものではありません。古くから身近にあった木の実に、新たな栽培品種と食べ方が加わりながら、現在まで受け継がれてきたのです。

地域の料理として食べ継がれたくるみ

縄文時代には自然から採取する食料だったくるみが、やがて地域ごとの料理に使われ、家族や人々が集まる日に食卓へ並ぶようになりました。

東北や信州など、身近な場所で採れる地域では、餅、和え物、豆腐、菓子などに使われてきました。

岩手県奥州市江刺地方に伝わる「くるみ豆腐」もその一つです。地元で採れるオニグルミをすり、水や砂糖、くず粉と合わせて固めた料理で、お盆や法事の精進料理として食べ継がれています。

長野県では、醤油と砂糖で味付けしたくるみだれを、おはぎなどに合わせる食文化が残っています。くるみ味噌を塗って焼く五平餅も、長野県をはじめとする中部地方の山間部に伝わる郷土料理です。

こうした料理は、くるみが単なる間食ではなく、地域の暮らしや年中行事と結びついてきたことを示しています。

自然の中から集める木の実だったものが、土地ごとの味付けや調理法を通じて、受け継がれる食文化の一部となりました。

現在、日本のくるみはどこで作られているのか

現在、日本のくるみ栽培で中心となっているのは長野県です。なかでも東御市は「くるみの里」として知られ、主に信濃くるみが育てられています。

2022年の国内生産量は約91トンで、そのうち長野県が50トン、全国の54.7%を占めました。国内生産の半分以上が長野県に集中していることになります。

しかし、戦後は海外産の流通が増え、国内の栽培面積は減少しました。東御市でも昭和50年頃をピークに栽培が縮小し、日本で流通する量の大半を輸入品が占めるようになりました。

現在、私たちが普段目にするものの多くは、アメリカをはじめとする海外の産地から届いています。その一方で、長野県を中心に育てられる国産くるみは、量こそ限られるものの、日本で培われてきた栽培技術と地域の食文化を伝える存在です。

縄文時代から身近にあった木の実は、海外から届く日常的なナッツと、土地に根づいた農産物という二つの形で、現代の食卓へ受け継がれています。

くるみの栄養|脂質、食物繊維、ミネラルを含む木の実

縄文人がくるみを食料として利用していた理由は、保存しやすさだけではありません。少ない量でもエネルギーを補いやすいことも、大きな特徴です。

文部科学省の日本食品標準成分表によると、いりくるみ100gに含まれる主な栄養成分は、次のとおりです。

 

栄養成分 100g当たり
エネルギー 713kcal
たんぱく質 14.6g
脂質 68.8g
炭水化物 11.7g
食物繊維 7.5g
マグネシウム 150mg
2.6mg
亜鉛 2.6mg
1.21mg
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」いりくるみ

くるみに多く含まれるリノール酸とα-リノレン酸は、いずれも体内で十分に合成できず、食事から摂る必要がある必須脂肪酸です。

リノール酸はn-6系脂肪酸、α-リノレン酸はn-3系脂肪酸に分類され、細胞膜を構成する成分となるほか、神経機能や免疫反応など、体の組織を正常に保つ働きに関わっています。なかでもα-リノレン酸は、体内で一部がEPAやDHAへ変換されます。

文部科学省の成分表でも、いりくるみの総脂肪酸に占める割合は、リノール酸が61.3%、α-リノレン酸が13.3%とされています。

食物繊維は、人の消化酵素では分解されにくい成分です。腸内環境を整える働きに関わり、日々の食事から継続して摂りたい栄養成分の一つです。

マグネシウムは骨や歯の形成に関わるほか、体内のさまざまな酵素の働きを支えます。銅は、鉄とともに赤血球の形成に関わるミネラルです。

このように、くるみには脂質だけでなく、たんぱく質、食物繊維、ミネラルなども含まれています。一方でエネルギー量も高いため、日々の食事や間食の中で適量を味わうことが大切です。

縄文時代の木の実を、現代の暮らしへ

少なくとも約一万年前から、日本人に食べられてきたくるみ。

縄文時代には秋に採取して蓄える食料であり、時代が進むと地域料理や行事食に使われるようになりました。近代には信州を中心に栽培が広がり、現在では世界各地で育つ種類を気軽に味わえるようになっています。

食べ方も大きく変わりました。

そのままつまむだけでなく、パンや焼き菓子、サラダ、ヨーグルトにも使えます。香ばしさと穏やかな渋みがあるため、コーヒーや紅茶、ワインなどとも合わせやすい木の実です。

さらに世界へ目を向けると、私たちが一般に「くるみ」と呼んでいるものとは異なる仲間もあります。

SUNOMAの「シルクロード実っくす」に使われている高原くるみは、中国で「山核桃」と呼ばれる中国ヒッコリーです。オニグルミや一般的なくるみが属するクルミ属ではなく、ピーカンナッツと同じカリア属に分類されます。

主な産地は、中国・杭州の臨安にある天目山周辺です。日本ではほとんど見かけない、小粒で特徴的なナッツです。

味や食感は、一般的なくるみよりもピーカンナッツに近く、カリカリ、サクサクと軽やかにほどけます。渋みやえぐみが少なく、香ばしいコクの中に、ほのかな甘みが感じられるのも特徴です。

シルクロード実っくす」では、この高原くるみを、爽やかな酸味とやさしい甘みを持つグリーンレーズンと組み合わせています。二つを交互に口にすると、くるみの香ばしさとレーズンの果実味、それぞれの異なる食感がより鮮明に感じられます。

縄文人が食べたオニグルミから、信州で育まれた栽培種、さらに海を越えて届く中国ヒッコリーまで。

くるみとその仲間を知ることは、世界各地の土地と食文化に触れることでもあります。

長い歴史を持つ木の実を、いつものコーヒーや紅茶、ワインとともに味わってみてはいかがでしょうか。

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