著名人に愛された木の実と果実(1)|ナッツやドライフルーツを好んだ人々
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歴史に名を残した人物というと、私たちはその功績や作品、劇的な人生に目を向けがちです。
けれども、彼らにも毎日の食事があり、好きな味があり、何度も手を伸ばしたくなるものがありました。
一皿のアーモンドをほとんど平らげてしまったナポレオン。砂糖をまとわせた南京豆を好んだ夏目漱石。幼い日のカランツ入りの焼き菓子を懐かしんだアガサ・クリスティ。そして、王室の厨房でレーズンをつまんでいたダイアナ妃。
教科書や伝記とは少し違う角度から眺めると、遠い存在だった著名人たちにも、親しみのある横顔が見えてきます。
今回は、ナッツやドライフルーツにまつわる食の記録から、4人の日常をのぞいてみましょう。
皇帝ナポレオンが愛した、一皿のアーモンド
フランス革命後のヨーロッパで頭角を現し、やがて皇帝となったナポレオン・ボナパルト。皇帝という肩書から想像する食卓とは対照的に、その好みは意外に簡素だったようです。
ナポレオンの身近に仕えたルイ=エティエンヌ・サン=ドニは回想録の中で、皇帝が手の込んだ料理よりも、スープやゆでた牛肉、卵、豆類など比較的シンプルなものを好んだと記しています。
果物もあまり多くは食べず、洋梨やリンゴなら4分の1ほど、ブドウなら小さな房程度だったそうです。
そんなナポレオンが、とりわけ好んだものがありました。
アーモンドです。
サン=ドニによれば、ナポレオンは新鮮なアーモンドをことのほか好み、皿に盛られていると、ほとんど全部を食べてしまったといいます。
原文では「fresh almonds」と記されており、現在よく目にするローストアーモンドと同じ状態だったとは限りません。
それでも、果物にはさほど手を伸ばさなかった皇帝が、アーモンドには夢中になったという記録は印象的です。
歴史画の中で威厳に満ちた表情を見せるナポレオンにも、目の前にあると次々と手が伸びる好物があった。
そう考えると、歴史上の大人物にも少し親近感がわいてきます。
夏目漱石の「大の好物」、砂糖がけの南京豆
明治を代表する作家、夏目漱石。その日常を知るうえで貴重なのが、妻・鏡子の回想を松岡譲が筆録した『漱石の思い出』です。
鏡子は、漱石について「南京豆が大の好物」だったと語っています。
南京豆とは、現在の落花生、つまりピーナッツのことです。
漱石は散歩へ出ると、どこで見つけてくるのか、砂糖のついた南京豆を一袋買って帰ったといいます。それを机のわきに置いて一人でぽりぽりと食べ、ときには子どもたちにも分けていました。
こうした話からは、「明治の文豪」という肩書だけでは見えてこない、家庭での漱石が浮かんできます。
散歩の帰りに好物を一袋買い、机のそばに置いて楽しむ。ときには子どもにも分ける。
今にもありそうな、何気ない日常です。
ちなみにピーナッツは、植物学上ではナッツではなくマメ科の植物です。ただし、食文化や食品の世界では、アーモンドやくるみなどと並んでナッツ類として扱われることもあります。
分類は違っても、漱石にとって南京豆は、見つけると一袋買って帰りたくなるほどの好物だったようです。
アガサ・クリスティの記憶に残った、カランツたっぷりのロックケーキ
数々の名探偵と難事件を生み出し、「ミステリーの女王」と呼ばれたアガサ・クリスティ。彼女の自伝には、創作とはまったく違う、少女時代の食の思い出も残されています。
その一つが、家の料理人ジェーンが焼いていたロックケーキです。
ロックケーキは、英国で親しまれてきた素朴な焼き菓子。クリスティが自伝に記したものは、さっくりとして平たく、カランツがたっぷり入っていました。焼きたてを食べたおいしさを、彼女は後年まで忘れなかったようです。
ここでいうカランツは、小粒のブドウを乾燥させたレーズンの一種です。一般的なレーズンより粒が小さく、パンや焼き菓子などによく使われます。名前は似ていますが、ベリー類のブラックカラントとは別のものです。
世界的なミステリー作家が自伝に残した幼い日の味。
それは特別なご馳走ではなく、家庭の台所から出てくるカランツ入りの焼き菓子でした。
年月を重ねても忘れない味がある。
クリスティにとって、ジェーンのロックケーキはそんな一品だったのでしょう。
ダイアナ妃が厨房でつまんだ、レーズン
世界から大きな注目を集めたダイアナ元皇太子妃。公の場とは違う気さくな一面は、身近で働いた人々の証言からも伝わっています。
王室で料理人を務め、その後ケンジントン宮殿でダイアナ妃の料理を担当したダレン・マグレディによれば、彼女が特に好んでいたデザートの一つが、英国伝統のブレッド・アンド・バター・プディングでした。
マグレディのレシピでは、パンとカスタードにレーズンを合わせ、仕上げにローストしたアーモンドを散らします。レーズンは前夜からアマレットなどに漬けて使われていました。
そして、レシピ以上に人柄を感じさせる話が残っています。
ダイアナ妃は調理中の厨房へよく姿を見せ、マグレディと話をしながら、プディングに使うレーズンをつまんでいたそうです。
格式ある王室の食卓とは少し離れた、厨房での何気ないひととき。
シェフと会話を交わしながらレーズンをつまむ様子からは、多くの人が知るプリンセスとはまた違った一面が伝わってきます。
好物からのぞく、もうひとつの横顔
ナポレオン、夏目漱石、アガサ・クリスティ、ダイアナ妃。
生きた時代も国も、残した功績もまったく違います。
けれども、アーモンドの皿に何度も手を伸ばす。散歩の帰りに南京豆を買う。幼い日に食べたロックケーキを忘れない。厨房でレーズンをつまむ。
そんな素の一面を知ると、歴史上の人物との距離が少し縮まるように感じます。
大きな功績とは別に、その人が何を好み、どんなふうに楽しんでいたのか。
ナッツやドライフルーツに残された小さなエピソードは、著名人たちのもうひとつの横顔を伝えてくれます。
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SUNOMA JOURNALでは、世界の珍しいナッツやドライフルーツの文化、シルクロードと果実の関わりなども紹介しています。気になるテーマがあれば、ぜひ続けてお楽しみください。